なんとなく日誌

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魔女「アリス・キテラ」の正体を追う

アリス・キテラとはなにものか

 「魔女マリ・ダスピルクエット」から始まった、なぜか有名な魔女の正体を追うシリーズ。
 アリス・キテラ(Alice Kyteler)も例のYahoo知恵袋の回答(2010/7/13)以前にweb上の日本語情報がなく、Yahoo知恵袋を起点に広まった魔女と言っていいだろう。アリス・キテラは1324年にアイルランドで初めて魔女として訴えられた人物で、海外では有名らしい。(表記ゆれ:Alicia Kyteler, Alice Kettle)
 彼女に関する書籍は多く出ていて初出まで辿ることはできなかったが、確認できた限りで最も古い情報は『ホリンシェッドの年代記等』(1577)にある。ホリンシェッドの年代記マクベスリア王など、シェイクスピアの戯曲の種本として知られている歴史書だ。

キテラーズイン

 彼女の故郷であるキルケニー(Kilkenny)では「キテラーズイン(Kyteler’s Inn)」という名のパブが観光地となっている。このパブは名前のとおりアリス・キテラを売りにしていて、アイルランドで最も古いパブのひとつらしい。公式ページによるとこのパブの元の所有者がアリス・キテラだとか。
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歴史上のアリス・キテラ

 アリス・キテラは1324年にアイルランドで初めて魔女として訴えられた人物。彼女は裕福で、4回の結婚を経験したが最初の3人はいずれも死別、4人目の夫も病を患っていた。
 確認できた中で最も古い情報は1577年の『ホリンシェッドの年代記』(※1)だが、それほど情報は多くない。後年の書籍(※2)にアリス・キテラに関する情報が詳しくまとめられているが、何を元にして書かれたものなのかよくわからない。※2を元に書かれた英語の書籍(※3)によるとアリス・キテラの息子ウィリアムは銀行家で有力者とのつながりも多く、Aliceを逮捕しようとしたRichard de Ledrede司教とかなりやりあったようだ。アリス・キテラを魔女として訴えようとしたリチャード司教が逆にキルケニー総督によって投獄されたと思ったら、今度はキルケニー総督が破門されるなど、半沢直樹ばりの政治劇が繰り広げられたことが記されている。ちなみにYahoo知恵袋に書かれていた召使いペトロニラの自白もこの本に載っている。
 (注:Seneschalの訳が分からなかったので総督としたが、間違ってるかも)
 最終的にはアリス・キテラ側が押し負けたが、息子のウィリアムは投獄で済んだようだ。しかし召使いのペトロニラ(Petronilla)は拷問のすえ火刑に処された。裁判に対抗して動いていたのはウィリアムであり、アリス・キテラがいつ逃亡したのかよくわからない。ホリンシェッドの年代記等によれば彼女は有力者の助けを得てイングランドへ逃亡したのだろうということになっている。

日本語書籍におけるアリス・キテラ

 海外では有名なので、日本でもかなり古くから知られていたようだ。初出は不明だが、1968年の『魔女と異端の歴史』にたびたび「アリス・キトラー」の名前が出ている。

日本のweb上における『アリス・キテラ』

 最近調べていた一連の魔女と同じく、Yahoo知恵袋の回答(2010/7/13)を起点に、まとめサイトを経て広まったらしい。
 もともと海外では知られていて情報源も多く、情報はおおよそ問題なさそうだ。上記のパブ『キテラーズイン』もテレビでも紹介されたし、実際に観光地として訪れた人のブログもある。

日本の商業作品における『アリス・キテラ』

 有名どころかつ語感もいいからか、商業作品での採用例も多い。

・『マギアコネクト』
2016年3月28日~2016年11月30日まで運営されていたソシャゲ。(注:マギアレコードじゃないよ!)
魔法少女アリス・キテラが登場した。
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・『ソウルリバース ゼロ』
2016年11月21日にスタートし、2019年5月31日に終了したソシャゲ。
アリス・キテラ(レア度UC)は当初から実装されていて、その後2018年2月7日にSSR「アリス・キテラ[愛の誓い‘18]」が新たに登場した模様。SSR化した際には5コマ漫画やPV動画も作成された。
www.youtube.com

・『バトルスピリッツ
2008年9月開始のバンダイトレーディングカードゲーム
ドルイドの魔術師キテラ』として2020年4月25日に登場した。
ドルイドケルトの文化であり、アリス・キテラの出身であるアイルランドと一致する。
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・『あやかし百鬼夜行 魂』
2012年7月開始?のソシャゲ。
アリス・キットラーは2013年9月27日の『笛吹きマグスと妖魔の行進』で登場。その後2017年にガチャ追加?
アイルランドはキルケーニの魔女というキャラ紹介で、間違いなくアリス・キテラが元ネタだろう。
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・『モンスターコレクト』
2018年5月1日にサービス開始。
イベント『魔女裁判の復讐と絆』にて『オリジンウィッチ ペトロニーラ・キテラ』が登場した。
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・『ソウルナイツ』
2016年2月3日から2017年3月30日まで運営されていたソシャゲ。
情報が少ないが、『魔女アリス・キテラ』が登場するようだ。
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・『聖骸の魔女』
ヤングキングアワーズにて連載されていた漫画。2014~2018
魔女のひとりがアリスキテラ。「強欲の魔女」「強欲のアリスキテラ」とも呼ばれていたらしい。
(読んでたけど細かいところは覚えてない・・・)

結論

海外で有名な魔女だけあって広まっている情報はおおよそ正確で、あまり付け加えるべきことはなさそうだ。
ただ、海外のアリス・キテラに関する情報の原典までは辿れず、情報の由来はいまいち判明しなかった。

参考文献

書籍

※1. Raphael Holinshed(1577)『Holinshed's Chronicles of England, Scotland, and Ireland 』(ホリンシェッドの年代記)
※2. Thomas Wright(1843 )『A contemporary narrative of the proceedings against Dame Alice Kyteler, prosecuted for sorcery in 1324』
※3. William Renwick Riddell(1917)『First Execution for Witchcraft in Ireland』