なんとなく日誌

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魔女「マンテウッチァ・ディ・フランチェスコ」の正体を追う

マンテウッチァ・ディ・フランチェスコとはなにものか

 「魔女マリ・ダスピルクエット」から始まった、なぜか有名な魔女の正体を追うシリーズ。マンテウッチァ・ディ・フランチェスコの名前は、Yahoo知恵袋震源地としてまとめサイトに広がっている。
 マリ・ダスピルクエットや イザボー・シェイネは海外ではあまり知られていないようだが、調べてみるとマンテウッチァ・ディ・フランチェスコは海外でも有名なキャラクターらしい。綴りは『Matteuccia de Francesco』で、英語Wikipediaにもページがある。(表記ゆれ:Matteuccia di Francesco)
 それでは、原典を確認してみよう。
noroue4.hatenablog.com


歴史上の『マンテウッチァ・ディ・フランチェスコ

 『マンテウッチァ・ディ・フランチェスコ』は1428年にイタリアのTODIで魔女裁判にかけられた人物であり、魔女裁判の最初期の被害者(※注)として、そして裁判記録に残っている中で最初の「空を飛ぶ魔女」として重要な人物で、多くの書籍や魔女研究にも登場するようだ。その中でも最も詳しいと思われる『TODIにおける魔女裁判と有罪判決の記録、マンテウッチァ・ディ・フランチェスコ、1428年3月20日』(1972)(※1)という、マンテウッチァ・ディ・フランチェスコを調べた書籍があるようだが、内容は確認できなかった。ラテン語で書かれていた裁判記録を英訳したものらしい。

 ちなみにMatteucciaはシダ植物の分類のひとつで、日本では山菜の「こごみ」がこれに含まれる。
(後年にイタリアの自然科学者『Carlo Matteucci』にちなんで名づけられたものなので、当時にこの意味はなかったが)

注※あくまで14世紀に盛んになった魔女狩りの最初期の被害者であり、それ以前に魔女として訴えられた人物がいないわけではない。(アリス・キテラなど)


日本のネット上における『マンテウッチァ・ディ・フランチェスコ

 マリ・ダスピルクエットやイザボー・シェイネと同じく、日本のネット上に『マンテウッチァ・ディ・フランチェスコ』の名前が最初に現れたのは2010/7/13のYahoo知恵袋だ。ただしYahoo知恵袋には詳しい記述がなく、まとめサイト
・【本物】中世に実在した19人の魔女 - 雑学ミステリー
に詳しい情報が追加されている。

マンテウッチァ・ディ・フランチェスコは15世紀イタリアにいた魔女です。
住んでいた村の名前から「リパビアンカの魔女」と呼ばれます。
1426年まで媚薬や、赤子の血液から精製した軟膏などを売っていたほか、サバトへ参加していたとも言われています。
1428年に魔女裁判にかけられ、処刑されました。
これは数ある魔女裁判の中でも、最も初期のものだと考えられています。

 これは英語WikipediaのMatteuccia de Francescoのページとほぼ一致するので、英語Wikipediaを出典としていそうだ。
 一点、まとめサイトと異なるのは赤子の血液から作った軟膏は売るのではなく、自分の体に塗って空を飛ぶために使われた点だ。そして、英語Wikipediaの記述は『魔女の擁護者』(2002)(※2)を出典としている。該当する記述は以下で、おおよそ英語Wikipediaの情報と一致しているようだ。

 Den första vetenskapligt belagda flygturen kan dateras till 1428. En nunna som ställdes inför rätta i Rom, Matteuccia de Francesco, erkände efter en lång uppråkning av sådant som var standard, läkedomsbesvärjelser och kärleksramsor med magisk effekt, att hon flugit till ett valnötsträd, förvandlad till en fluga men ändå ridande på en demon i skepnad av en bock sedan hon smörjt sig med en salva där blod från nyfödda barn var den viktigaste ingrediensen. Den teologiska expertisen godtog hennes berättelse och därmed var flygvallen genombruten.

(注:スウェーデン語なので機械翻訳から解釈)
 (前段落とあわせて)魔女が空を飛ぶという伝説はそれ以前から存在していたが、魔女裁判の記録としてはっきり残っている中では最初の「空を飛ぶ魔女」だということだ。このときに使われたのはいわゆる「魔女の軟膏」で、魔女が空を飛ぶために使うものとしてよく知られている。魔女の軟膏と「空を飛ぶ魔女」は魔女狩りの初期からセットだったらしい。マリ・ダスピルクエットイザボー・シェイネの自白でも、類似の軟膏を使って空を飛んだことが語られている。

 さらに、空を飛ぶときにはハエに変化したとある。「洗礼前の子供の肉体から魔女の軟膏を作る」「魔女の軟膏を使って空を飛ぶ」「動物に変化する」という魔女裁判における基本セットが揃っているので、魔女狩り最初期から魔女に対する共通認識は成立していたということだろうか。


・各種小説投稿サイト
 個人作品にも複数登場するマリ・ダスピルクエットやイザボー・シェイネと違い、小説投稿サイトの個人の作品にもほぼマンテウッチァの名前は登場しない。
 (1件だけヒットした)

日本の商業作品における『マンテウッチァ・ディ・フランチェスコ

 日本の商業作品で『マンテウッチァ・ディ・フランチェスコ』はほぼ見つからなかった。
 一年未満の短命で終わったソシャゲ『メモリア・ナイツ』(2015/8/19~2016/5?)に『魔剣士マンテウッチァ』が登場しているくらい。

結論

 『マンテウッチァ・ディ・フランチェスコ(Matteuccia de Francesco)』は海外では比較的知名度が高い魔女で、最初期の魔女狩り被害者であり、魔女裁判の記録の中で最初の「空を飛んだ魔女」でもあるようだ。海外では無名のマリ・ダスピルクエットが日本で広まりつつあり、逆に海外では有名なマンテウッチァ・ディ・フランチェスコが日本で無名なのはちょっと面白い。
  (魔女裁判の記録における)「最古の魔女のひとり」「最初に空を飛んだ魔女」といった強いエピソードがある割にキャラクターの名前として使われることが少ないのは、やっぱり語感が微妙なせいかな?ダスピルクエットの方がかっこいいしね。というか、マ『ン』テウッチァの『ン』はいらないような気もする。

参考文献

書籍

※1. Domenico Mammoliほか(1972)『THE RECORD OF THE TRIAL AND CONDEMNATION OF A WITCH, MATTEUCCIA DI FRANCESCO, AT TODI, 20 MARCH 1428』
※2. Jan Guillou(2002)『Häxornas försvarare』(注:スウェーデン語の書籍)

webサイト

・Yahoo知恵袋の回答(2010/7/13)(ttps://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1443488209)
・『【本物】中世に実在した19人の魔女 - 雑学ミステリー』(ttps://zatsugaku-mystery.com/real-witch/)
Matteuccia de Francesco - Wikipedia

注:2020/9/27現在、Yahoo知恵袋のこの質問がGoogle検索に出ない、いわゆるGoogle八分になっている。なんで???(ページ自体は残っている)